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⑩ 主要項と補正項 ~非対称性とカウンターバランス

4本の弦の並びと弦張力の違いにより、楽器がねじれる方向は決まります。
従って、そのカウンターバランスの方向も自動的に決まります。
カウンターバランスを考慮に入れるとき、ネックは右側にねじらなければならない
ことを前回、フォノグラムを見ることにより確認しました。
このように、はっきりと方向の決まったカウンターバランスを

カウンターバランスの主要項

と呼ぶことにします。
これに対して、同じカウンターバランスでも、方向がまちまちで一意的に決まらない
ものを

カウンターバランスの補正項

と呼ぶことにします。
主要項についてはフォノグラムなしでも、弦の張力やそれによって共鳴版にかかる
圧力や、応力を考察していけば純粋に物理的な問題として片付けることができます。

補正項は、無視しても良いほど小さな誤差項のようなもの、と考えがちですが、
音と形の関係においては、ほんの小さな狂いがとても大きな影響として現れてきます。実はこちらの補正項の方がコントロールが難しいのです。
フォノグラムは、この微妙なコントロールを可能にする技術です。

今回は、このカウンターバランスの補正項について考えていきたいと思います。
ヴァイオリンの横板の厚みのバラつきやパフリングの位置の微妙な位置のズレについて、フォノグラムを通して考察してみたいと思います。

以下が横板とブロックの構造です。

burik.jpg

6枚の横板が6片のブロックに取り付けてあります。
この6枚の板の厚みもブロックのサイズも微妙に違ってきます。
古い楽器も横板の厚みがバラバラです。
特にネックのようにある方向性のあるカウンターバランスではなく、単にバラバラなのです。

フォノグラムによる制作法では、音を聞きながら共鳴が強くなるようにデザインしていくので、そうなるのは当たり前なのですが、ひょっとしたら昔の製作者も同じ方法で作っていたのではないか、と思うフシがあります。
このことについては、いずれまたの機会に触れたいと思います。

また、各パーツもフォノグラムで作っていくのですが、組み上げた時に、ほんの紙一枚分の差でも共鳴状態は変わってしまいます。
組み上げるごとに修正が必要になってきます。

横板もブロックも裏板もこの形状になったとき、すべてをフォノグラムの意味で
統一体にしなければいけません。
すべての音を合わせるようにヤスリで微調整していきます。

kkaaaa.jpg

表板も取り付けて完全な箱にしてしまいますと、もう内側は削ることができません。
(実際には金具の先にヤスリを取り付けて、削ることもしますが、、。)
取り付けたことによる、歪みがフォノグラムの渦として現れますので、これを丁寧に消していきます。視覚的なフォノグラムの渦を消していく操作と、聴覚的に削る音を聞いて、共鳴最大にしていく操作は同値です。

yokoita.jpg

この状態は、まだネックも4本の弦も取り付けていない状態ですから、最終的な修正の余地は残す程度に音を合わせていきます。
このようなコントロールもフォノグラムの図形パターンを調べることにより可能です。

横板の厚みは、さほど4本の弦の張力の違いにより生じる応力の影響を受けないようです。
むしろ、全体の共鳴状態との整合の問題、フォノグラムの問題のような気がします。
つまり、カウンターバランスの補正項こそがフォノグラムが扱う領域なのです。


1605-amati-purfling.jpg

次にパフリングの位置について調べてみたいと思います。
パフリングは、音響的にはない方がいいに決まっています。
しかし、それでもこの形式が取られている合理的理由は、共鳴版の割を防ぐ効果と
装飾の美しさからであると考えられています。
パフリングが入ると楽器全体が引き締まって見えます。

現在では、楽器の淵から等距離に、正確にカッターで切れ込みを入れて埋め込んでいくのですが、古い楽器には、淵からの距離が、場所によって微妙に違うのです。
これも、フォノグラムを取れば理由がはっきりします。
閉じたフォノグラムラインは、クラドニモードと一致すると考えられます。
つまり、振動の節にあたる部分です。
楽器はこの波の節に当たるラインだけでデザインされていれば理想的になるはずです。

楽器の淵、アウトラインも等音線でデザインしています。
波動方程式の境界条件を作っていると考えていいでしょう。
そうすることで、波動方程式の境界条件に従う解を恣意的にコントロールするわけです。

最終的に弦を張った状態ではアウトラインのフォノグラムも応力の影響により
歪みを受けます。この場合、カウンターバランスをとるためにパフリングの位置をきめるというよりも、フォノグラムラインに沿って正確にパフリングを施すことによって、パフリングが振動の節の位置に来るように調整してやる必要があります。
これも、カウンターバランスの補正項と考えてよさそうです。

huhuhu.jpg

フォノグラムの典型的なパターンの一つ、同心型のパターン
アウトラインの音が揃っていくと、アウトラインから等距離に稠密にフォノグラムラインが並びます。その上に重なるようにパフリングを施していけばいいわけです。
当然、場所によってアウトラインからの距離が微妙に変わってきます。



つづく



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⑪ 意味のある物理実験 ~非対称性とカウンターバランス

クラドニモードとは、ある固有振動に対して、振動の節の部分に砂が集まり、その固有振動モードに対応する図形が浮かび上がるというものですが、結局のところ、あまり楽器製作の現場で役に立っているとは思えません。

20120512211405f20.jpg


大抵は、共鳴版の部分をバイオリン本体から剥ぎ取って、分解した状態でクラドニモードを観察するのですが、分解した状態と、組みあがった状態では明らかに異なる状態であるということをこのシリーズで研究してきました。

紙一枚分の圧力の違いでも、共鳴版の内部緊張状態は大きく変化します。
またそれがフォノグラムの図形の歪みとして検出されます。
この内部緊張が楽器の音響に与える影響をクラドニモードを利用することで明らかに出来るでしょうか?

ニュートラルな状態の共鳴版、これは外力の全くかかっていない状態での共鳴版ですが、この状態のクラドニパターンと、外力のかかった状態の共鳴版、圧力や応力をかけた状態の共鳴版のクラドニモードを比較するという実験をしたらどうなるでしょうか?

大きな外力がかかれば当然結果は違うだろうと予測できますが、目に見えないほどの
応力や圧力を加えて、共鳴版の内部緊張が変わる程度にしてクラドニモードを比較して見たらどんな結果になるでしょうか?

フォノグラムでは結果は明らかですが、こう考えていけば、フォノグラムを仮定しなくても楽器の内部緊張と音の関係を明らかにすることができます。

予想されることは、見た目に分からないくらいの応力による共鳴版の歪みでも、ある
固有振動のクラドニパターンはでなくなってしまうだろうというものです。

これは意味のある実験だと思います。
また再現可能な純粋な物理実験なので、フォノグラムのことは言わなくて済みます。

ほとんど、実験しなくても明らかなのですが、フォノグラムの実在性を証明するための第一歩だと思います。
(意外にも、このような共鳴版の音響特性と共鳴版の内部緊張の関係は調べられていないようです。私がしらないだけで既に誰かが調べているかもしれませんがその時はすいません。)

応力を加えることにより特定の固有振動に対応するクラドニパターンが出なくなったとしたら、それをどのように出るようにしてやれるでしょうか?

一つは応力を解放すること、元のニュートラルな状態に戻すことですが
もう一つは、応力をかけたまま、フォノグラムを取り、図形パターンを修正することにより、かかっている応力のカウンターバランスをとってしまうことで、元のニュートラルな状態と同じ内部緊張状態にすることが考えられます。

これができれば、フォノグラムが間接的にですが実証されます。


フォノグラムは、クラドニパターンとは違いますが、固有振動モードに対応するクラドニ図形をひとつの面に射影して重ね合わせて描いています。
いわば、ノイズの中から、ある特定の振動数の音を選び出し、その音の等音線がフォノグラムですので、含まれている音の数だけフォノグラムラインは重ね書きされています。
既存の音響学を学ぶ前から、フォノグラムを使いこなしている私にとって、まだ言葉の整理が出来ていないようです。

「概念とは比較の中で始めて形成される」とは数学者 遠山啓先生のお言葉です。

既存の物理学と比較検証することが可能ならば、始めて新しい概念形成も可能になるのだと思います。

泥臭い事実の積み上げしかありません。

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⑫ 楽器本体の非対称なデザイン ~非対称性とカウンターバランス

mmmm.jpg


実は、最近まで、わたしも楽器は対称なデザインのほうが良いと思っていました。
フォノグラムで音を合わせて作っていく方法では、共鳴版を対称に作ることが困難です。
自分の音を聞く能力が高くなれば、この問題は解消されると思っていたのですが、
弦張力の違いによる応力のアンバランスに気がついたときに、
決定的にそう考えるのは間違いだと気がついたわけです。

フォノグラムによる楽器製作法において、一番重要なのは楽器のアウトライン
のデザインです。
なぜならば、アウトラインが決定されれば、
内部の曲面の隆起は自動的に決まってしまう
からです。

つまり、楽器本体のカウンターバランスを考慮したデザインは
アウトラインをどのように非対称するかということに還元されてしまうのです。

ここで少し、アウトラインと楽器の曲面の隆起のデザインについて考えてみます。

アマティーの楽器とストラディバリの楽器は、
その共鳴版の隆起から見分けがつくものです。

(アマティーはストラディバリのお師匠さんです。)

フォノグラムでアマティーの楽器を調べますと、
楽器の隆起のデザインが等音面で出来ていません。

アマティーは、まだ観念的に彫っていたと思われるのです。
アマティーのアウトラインを模写しで、内部の隆起を等音面で決定しますと、
ほとんどストラディバリの楽器のような「感じ」になります。

つまり、ストラディバリの楽器は等音面で出来ている可能性が高いというわけです。
フォノグラムを知っていたかどうかは別として、意識的にしろ、無意識的にしろ
音を聞きながら彫っていたのは間違いがなさそうなのです。

ガルネリやシュタイナーなどのアウトラインでも同様の実験をしましたが、
等音面で削って、元のモデルと同じような曲面になったものは、
ストラディバリとガルネリでした。

gf5_20120824181002.jpg
(アウトラインはガルネリ、内部の隆起は等音面、ほぼ同じフォルム。)


ちなみに、シュタイナーは全然違う隆起になってしまいました。

utigata.jpg
(アウトラインはシュタイナー、それによって決まる等音面は、シュタイナーのものとは似ても似つかない。)



話を元に戻します。
楽器本体のデザインはアウトラインを決定すれば、
内部の曲面は自動的に決まってしまうことを見てきました。

考えたいのは、弦張力の違いからくる応力のカウンターバランスを
作るために、楽器本体のデザインをどう作るかということです。

そしてそれは、楽器のアウトラインさえ考えれば良いということです。

アウトラインをどのように非対称にしていくかは、昔の楽器を調べて、
傾向を調べていけばいいと思います。
これはカウンターバランスの主要項にあたる部分なので
明らかな歪みの方向があるはずです。


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