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④ シュパヌングという技法  ~非対称性とカウンターバランス~


弦張力が共鳴版にどのように影響するのか、フォノグラムを通して見てまいりました。
今回から、実際に、弦張力の影響による歪みを補正するためのカウンターバランスについて
考えていきたいと思います。

まず、バイオリンの内部構造を見てみます。

TEACHING PICTURE Inside the Violin


15kgもの弦張力による圧力が常に駒にかかっています。
これに対するカウンターの力を構成できるのは、バスバーと魂柱です。
以下それぞれ簡単に説明します。

バスバーはG線側にあり、共鳴版の補強の意味と、共鳴版が全体で振動するための働きをしています。
主に低音部の確保のためと思われます。
大きな振動数を確保するためでありますので、E線側に付けるよりも、G線側にあるようです。
ある本には真ん中に取り付けた実験もしたがあまり良い結果が出なかったと記してありました。
また、E線側には魂柱と呼ばれる、表板と裏板を繋ぐ柱が立っています。
E線の弦張力はG線のよりも2倍ぐらい強いのでこのような、
しっかりとした柱で支えてあげる必要がありますし、E線側は高音部を担当しますから、振動数は
高くなりますので、このような細い柱が適していると考えられます。
また、表板の素材は一般的に、スプルースで比較的柔らかく、低音部を出すのに適しており、
表板は楓でスプルースよりも硬く、高音部を出すのに適していると思われます。
魂柱により、E線側の高音部を硬い裏板に響かせる構造は努めて合理的だと考えられます。

このことを踏まえて、まずはバスバーによるカウンターバランスを考えてみます。

b.jpg
(バスバー:表板に取り付ける力木。取り付け位置、寸法、隆起の形も全てフォノグラムで
 自動的に決まります。後で詳しく説明します。)

バスバーによるカウンターバランスはシュパヌングという技法で知らてています。
バスバーを共鳴版に合わせてピッタリ取り付けるのではなく、バスバーの両端を0.5mm~1.0mm浮かせることにより
共鳴版の中央部に下から圧力がかかるようにするわけです。
こうすることにより、弦長力のカウンターバランスを構成することができるわけです。

これは一般に言われていることですが、シュパヌングをキツくかけすぎると、楽器はならなくなってしまうようです。ここでフォノグラムが役に立ちます。

バスバー1
(どのくらいのシュパヌングをかければいいのか?なにか計算する方法はないのか?)

g syupu drd maue

前回までに、共鳴版の上から圧力を少しずつ加え、フォノグラムの変化を観察してまいりました。
そこでわかったことは、圧力を1音加えるごとに、格子の分割が2倍になるということでした。

ということは、共鳴版を裏から押して、フォノグラムの格子の数をカウントすることによって
表から掛かる弦聴力に正確に均衡する位置を計算することができます。
それによって、バスバーの最終的なシュパヌングを決定すればいいわけです。
全て組み上げた時にはこのカウンターバランスによって、弦張力によって生まれる共鳴版の歪みを
ゼロにしてしまいたいわけです。

uraosi.jpg
(裏から押して、フォノグラムを調べる。格子の数を数えて、
 どれだけのシュパヌングをかければいいのか計算することができる。)

バスバー カウンターバランス
(共鳴版を裏から押して、適切なところで止める。出来たその隆起を正確にバスバーに転写する。)

補正syupa

紫のラインが圧力をかけていない状態の共鳴版の隆起、美織のラインが圧力をかけた状態の共鳴版の隆起です。
緑のラインにあわせて、バスバーの圧着面を整形し、最終的に圧着した状態で、共鳴版が格子パターンになっていて、逆からの圧力の分だけ余分に格子の数が増えていればいいわけです。

修正後

粘り強く何度も繰り返して合わしていきます。
今回はこの格子数で圧着することにしました。



このように、フォノグラムを注意深く観察すれば、新たな観点を持つことができます。
何をどうすればいいか(因果関係)が合理的にわかるようになります。

何艇か作って、少しずつ格子の数を調整してデータを取れば、
最適なシュパヌングを探すことができるはずです。
2~3年はかかると思います。

このほかにも考えるべきカウンターバランスがあります。
このバスバーのカウンターバランスはその中でも最も簡単なものであるように思えます。

次回は、バスバーについての若干の補足と、バスバーを取り付けた後の共鳴版のフォノグラムを
調べてみたいと思います。





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⑤ バスバー考究  ~非対称性とカウンターバランス~

 微調整 バスバー

前回の方法でバスバーを実際に取り付けていきます。
バスバーの両端をクランプで固定し、最終的に取り付ける位置の微調整をします。
この時もフォノグラムを利用します。完全な格子パターンになるように何度も粘り強く調整していきます。
調整は指で弾く程度の微妙な力でやります。
(楽器の駒や魂柱調整と同様のやり方です。いずれそのことにも触れます。)


修正後

圧着し、整形していきます。


basu.jpg

b_20120721230453.jpg

バスバーの曲面の隆起も共鳴版と同様、音を聞いていれば勝手に「等音線」として現れます。
実際に、音の共鳴が強くなっていくのが誰の耳にもはっきりとわかると思います。
(これは物理測定ができるはずです。)



少し脱線ですが、バスバーの長さや幅の決定について触れておきます。

楽器の構造を「音(ナミ)」の構造物と見なしたとき、
振動の「節」に当たるところが全て構造体のジョイント部分になるようにしてあげれば良いはずです。
そうすれば、共鳴を最大にすることができるはずです。
もしも、構造体のジョイント部分が振動の「はら」になってしまえば共鳴は殺されてしまいます。

閉じたフォノグラムは振動の節にあたる部分です。
そう言う意味ではクラドニ図形と一致します。

ですから、フォノグラムのラインに沿って、全てをデザインしてあげればいいのです。
またそのように整形して行くと、共鳴はどんどん大きくなっていくことが確認できます。
これは音を聞きながら彫りすすめるというやり方以外には不可能なことのように思えます。

振動の節がどこにあるのか、どんな情報が頼りになるでしょうか?




それではバスバーの長さと幅をその方法で決定してみたいと思います。

バスバーの形

フォノグラム格子パターンはいわば、ある音列に対する固有モードを表しています。
あらゆる音列が格子パターンになるように削っていくのですが、
この操作は概念上無限に進みます。
しかし、物理的には、ある有限の厚みのところに収束するようです。

一つのフォノグラムラインは同時に、沢山の音列を含んでます。
それが、構造体の節になればいいわけです。
だいたい標準寸法になるような、フォノグラムのラインを無数の候補から選び出します。

(以前、7弦や5弦のビオラダモーレを作った時も、この方法でバスバーの位置、コン柱の位置、駒の足の位置
 などを決定しました。どんな楽器であれ、フォノグラムを利用すれば同じことです。)

すると、だいたい、バスバーの幅が、アッパーバウツの先で4,2mm、真ん中あたりで5.0mm
ロウワーバウツの先のほうで6.0mmぐらいになりました。

よく「バスバーの寸法は決められているから」という人がいますが、
音で合わせていくと自然と同じ幅にはなりません。
共鳴版のデザインが微妙に変化しているわけ(アッパーバウツの方が小さい)

ですから、こちらのほうがより自然です。
このことは、横板の高さにも言えることです。(アッパーバウツの方が低い;全体の平均が30mm)

標準寸法というのは、あくまで「平均値」に過ぎないだけで、決められた寸法などというものは
どの部分にしろあるわけがないのです。
同一条件の木材がないのですから、、。

basugo.jpg

次にバスバーを取り付けたことによって、共鳴版のフォノグラムがどのように変化したのか
調べてみます。
上の図のようになりました。
これは、シュパヌングをかけることによって、中央部分が周辺部分よりも緊張が強いため、
緊張度にムラが出来ることによって、渦巻きが現れた状態です。
中央部分に合わせるには、渦を消してやればいいわけです。
サンドペーパーで2,3回さすってやれば簡単に音が変化してくれます。

(調整のしやすさというのは、このような反応性の良さにあります。
 反応性を良くするには薄くせざる負えませんが、周囲との力のバランスをうまく取らないと
 歪んでしまいます。また、逆に、周囲の力に影響されないように頑丈に作ってやりますと、
 今度は反応性が悪くなってしまいます。)

修正後は以下になります。

basugosyuusei.jpg

いつでも組み上げる時の影響を考慮しながら、修正の余地を残しながら作っていくのがポイントです。
また、そのようなことが可能なように各パーツを用意してやらなければいけません。

次回は、このバスバーを取り付けた状態の表板を、押したりひねったりして、
取り付け前と何が違うのかを調べてみます。




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⑥ 共鳴版を「操体」 してみる ~非対称性とカウンターバランス

整体のテクニックで「操体法」というものがあります。
体の各パーツをいろいろな方向に動かしてみて、どこの動きがアンバランスか調べながら
調整していく技術です。
大抵、話を簡単にするために、上下、左右など二方向の動きに還元してしまい、
どちらが「抵抗」があるか確認しながら、「抵抗」のない方に各パーツを動かしていきます。

私は、自分の体も他人の体も同じように
どこで抵抗がかかるのか一瞬でわかります。
抵抗反応が起こる瞬間(実はそれよりも前)に音の変化で分かるのです。

この方法で、バイオリンの共鳴版を調べてみたいと思います。

まず、バスバーをつけた後の共鳴版は明らかに非対称な構造になっています。
バスバーを付ける前は対称だったので、例えば左右にひねっても「同じような力のかけ具合」で
同じようなところで音が変化するはずです。

しかし、バスバーが取り付けられたことにより、左右非対称な構造になってしまったため
そのようにはならないはずです。

これをフォノグラムで調べてみます。
(実際の、施術の見立ても同じようにやります。)

まず、なんの力も加えないニュートラルな状態

basugosyuusei_20120724215702.jpg

格子パターンになっています。
(もちろん、音が揃っていなければ、格子パターンは出ません。)
この状態が、なんの外力もかかっていない
いわば「ゼロ」の状態です。
これを確認した上で、外力を加えていきます。


ねじりdr

まず、この図の方向にねじってみます。
音が「d」から「r」に変わるところで止めてみます。
これは音を2度上げたことを意味しています。

その状態で固定し、フォノグラムを調べます。

z2


*写真からでもフォノグラムを取ることができます。
 したがって、写真さえあれば、体の診断も出来てしまいます。
 体の診断に対しては、ほぼ間違いがないのですが、楽器でも同じことになるのかが
 これから調べていくことです。*


真っ直ぐなフォノグラムラインはグニャグニャに曲がってしまいます。
(音が揃っているので曲がるだけで済みますが、大抵は曲げることさえもできません。
 柔軟性がないから壊れてしまいます。)

もっと曲げていくと曲線は渦巻きになってしまいます。
この状態では鳴らないことははっきりしています。

もう一音上がるまで同じ方向にひねってみます。

ねじりdrd

d-r-d と音が変わるところで止めてみます。
この状態のフォのグラムを調べてみます。
以下がそれです。

z1

ここまでねじると フォノグラムラインは格子パターンに戻ります。
安定する状態と不安定になる状態が波のように交互に来ます。

さらに同じ方向にひねろうとしても音が変化してくれません。
ここが限界のようです。

それでは、逆の方向にひねってみます。

2軽い方向がない

逆方向にねじっていくと、初めから音が変化してくれません。
こちらの方向には、ねじれに対する余裕が一切ないということです。
無理にねじれば壊れます。

これは、バスバーを取り付けたことによる非対称性の現れです。
外力に対する内部緊張がはっきりと違うということです。

最終的に組み上げ、弦を張った時に、フォノグラムパターンが格子になるようにしようとしています。
(フォノグラムパターンが格子になっていない楽器は少なくとも絶対に鳴りません。)
真っ直ぐになりさえすればいいので、ひょっとしたら、カウンターバランスをとる方法と
もう一つ、ワザと綺麗にねじる方法があるのではないかとも考えるようになりました。

これらは、フォノグラムを綺麗にするという意味では一緒ですが、力のかけ方、バランスの取り方は
真反対になります。


実験を続けていけばいずれはっきりするでしょう。




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